「天国の本屋」(松久淳+田中渉)

本好きのあなたのための一冊

「天国の本屋」(松久淳+田中渉)新潮文庫

就職先の決まらない
大学4年生のさとしは、
ある日アロハシャツの
不思議な老人ヤマキと出会う。
ヤマキに連れてこられた先は
何と天国。そこにある本屋
「ヘブンズ・ブックサービス」で
働くことになったさとしは、
なんと読み聞かせを…。

天国と本屋。
このどう頑張っても
結びつかなさそうな舞台を、
巧みに繋ぎ合わせ、
ファンタジーの舞台にしています。
この「天国の本屋」で、
さとしが受け持った仕事は「朗読」。
客の依頼に応じて
本の読み聞かせをするのです。
彼の朗読は
なぜか子どもたちから大好評。
次第に大人たちも朗読を
リクエストするようになります。

本屋には店員がもう一人。
愛想のない女の子ユイ。
彼女はさとしの朗読を
聴こうともしない。
この設定からすると、
さとしとユイは絶対に恋に落ちる。
最初から見えているのですが、
終盤までどのように
進展するのかわかりませんでした。
結末が見えているのに
その道筋が見えない。
恋愛小説はこうでなくてはいけません。

なぜさとしは
天国に連れてこられたのか?
なぜさとしの仕事が朗読なのか?
なぜユイは天国にいるのか?
なぜユイはさとしの朗読を避けるのか?
多くの謎が、終末に至るまで、
一つ一つ丁寧に
解き明かされていきます。
伏線を適切に張り巡らし、
回収する。
ファンタジー小説はこうあるべきです。

物語の内容は詳しくは書きません。
ぜひ読んでください。
さとしとユイは
天国で悲しい別れをします。
現世に戻ったさとしは
天国での記憶を持たないユイを
見つけることができるのか?

その結論は本編最期の1行で
解き明かされます。
また、その経緯は、
本編に入る前の1ページ、
店員と客の会話文で描かれています。
読み終わってはじめて、
この1ページの意味がわかりました。

読書をはじめようと思った中高生、
大人のみなさん、
そして
本好きなあなたのための一冊です。

※本屋で本の読み聞かせ。
 この状況を想像しただけで、
 本好きの、いや、本屋好きの私は
 わくわくしてしまいます。
 今や書店はレンタルビデオと合体し、
 騒々しいBGMが絶え間なく流れ、
 店内はゆっくりと
 本を楽しむ環境にはありません。
 もし、そんな本屋があったら、
 毎日でも通ってみたいと
 私は思います。

(2019.3.30)

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